++ 2年後の再会 ++





「……おや?」

とても軽やかな鈴の音が聞こえたような気がして、シャリアーズはペンを走らせて

いた手を止めて顔を上げた。

それはとても耳に馴染んだ、けれどもここしばらくは聞くことのなかった音色。

そう……これはこの異空間と外界を繋ぐ、月詠の鈴の音。

ペンを置いて立ち上がると家を出る。通り行く人々に挨拶を交わしながら里の高

台に足を運ぶと、そこにはシャリアーズの想像していたとおりの人物が立ってい

た。

黒い髪に黒の衣服。手には漆黒のハルバードを持つ全身黒尽くめの男。

シャリアーズがこの男と出会ったのは2年前。あの頃は一人で暴れだしてしまい

そうな、鞘を失った剥き出しのナイフのような印象を持っていたけれど、今は幾分

か落ち着いた雰囲気を纏っているような気がする。

それでも捻くれた性格は相変わらずなようで、早々に現れたシャリアーズを前の

露骨に嫌そうな顔をする。けれどこれも一種の愛情表現のようなもの。それを

知っているシャリアーズは笑みを返す。

「久しぶりですね、ガッシュ」

「……まぁな」

ガッシュは吐き捨てるように言うとシャリアーズから目を逸らす。

相変わらずの様子にシャリアーズは苦笑してしまう。

「つれないですね。2年ぶりの再会だと言うのに」

「こっちは別にアンタとはもう会わなくてもよかったんだよ」

そんなやり取りをしている最中、風も吹いていないのにガッシュのマントが揺らめ

いているのに気がついた。

何気なくそちらの方に目をやると、ふわりとマントがめくりあげられ、そこから3つ

の光が飛び出してくる。

「あっ! 馬鹿! いいって言うまで出るなって言っただろ!」

ガッシュが叫ぶがそんな制止の声など気にも止めず、3つの光は物凄い勢いで

シャリアーズの目線の高さに並ぶ。

突然のことに呆気に取られて固まってしまったシャリアーズの前に現れたのは、

光に包まれた3人の小さな少女だった。

けれどその可愛らしい顔は怒りの表情が浮かべられており、赤、青、黄、3色の

瞳がシャリアーズを睨みつけていた。

「ちょっとあなた! 一体ガッシュ様の何なのですの!」

「そうだよ! 少し馴れ馴れしいんじゃない!?」

「ガッシュ様に害を成すのなら容赦はしないぞ」

「……………………」

口々に突然怒鳴られて、その怒涛の勢いに口を挟めないでいたが、ふと我に返っ

たシャリアーズは少女たちの後ろの方を見る。

そこには苦虫を噛みつぶしたような顔をしたガッシュがいて、無意識の内に口元

に笑みを浮かべてしまう。

「おやおや。知らない間に3人もお嫁さんをもらったのですか」

「もらってねぇ! 誰が嫁だ誰が!」

「違いましたか? でしたらずいぶんと子沢山になったのですねぇ」

「違うだろ!」

からかわれているのはわかっているが返さずにはいられない。そんな子供っぽい

性格もシャリアーズは熟知していた。

「だから出てくるなって言ったんだ……」

長い長いため息と一緒に呟くと諦めたように顔を上げ、投げやり気味に答える。

「……兄貴の使役してた妖精だよ。引き取ったんだ」

続けられた言葉にシャリアーズは軽く目を見開く。

「お兄さんの? ……それじゃあ、あなたの目的は」

「あぁ、終わった」

「……そうですか」

ガッシュの目的。それは兄を止めること。

彼がシャリアーズに符術を習った元々の理由はそれだった。

本来ならもっと深く聞いておくべきことなのだろうが、シャリアーズはそれ以上その

話題を続けることはしない。

ガッシュは終わったと言っていた。それがわかっただけで十分だ。

……だが、今目の前で起こっている事態はそれで済まされることではない。

シャリアーズはまだ怒った顔をしている3人の小さな少女を交互に見やるとニコリ

といつもの笑みを見せた。

「始めましてお嬢様方。私はシャリアーズと申します。ガッシュの……そうですね、

有体に言えば符術の師匠になります」

シャリアーズが自己紹介をすると、今度は3妖精が「え」と呟いて目を真ん丸くさせ

る。

大きな目を何度か瞬かせ、互いの顔を見たあと、ゆっくりと背後のガッシュの方を

見て、もう一度シャリアーズの方を見て……

「お、お師匠様だとは知らずに失礼いたしました!」

「なんだよガッシュ! それならそうと言ってくれたらよかったのに!」

「そうですわ! ガッシュ様の師匠と知ってましたら私達だってこんな無礼なことし

ませんでしたのに!」

3妖精の怒りの矛先が一気に自分に向けられてガッシュは二の句を繋げないで

いる。

「あ……いや、その……」

こういう状況には慣れていないのだろう。しどろもどろになるガッシュにシャリアー

ズは笑いを堪えることができずに肩を小刻みに震わせた。

「私のことを説明してくれてなかったのですね。まったく私も薄情な弟子を持ったも

のです」

恐らくガッシュのことだから、説明するのが面倒だったとか、話すことでシャリアー

ズのことを思い出すのが嫌だから話さなかっただけだろう。

「……それにしても、約束どおりまた会いに来てくれたのですね」

シャリアーズがガッシュと共に過ごしたのはほんの数ヶ月間。

しかも符術をマスターするなり、ガッシュは己の目的を果たすためにすぐにアルタ

ゴを離れようとした。

そして、その幾分か逞しくなった背に向けてシャリアーズは一方的に約束を取り付

けた。

『全てが終わったらもう一度このアルタゴを訪ねてきてほしい』、と。

ガッシュはそれに頷くことも首を振ることもせずに去っていったので、正直約束を

守ってもらえるかどうかはシャリアーズにもよくわからなかった。

ただなんとなく、この男なら約束を守ってくれるだろうと心のどこかで思っていた。

なぜならば……

「……借りた借りは返さないと気持ちが悪いんだ」

ぶっきらぼうに返すガッシュに、シャリアーズはわずかに目を細める。

……なぜならば、ガッシュという人間はそういう男なのだから。

「本当に変わりませんね。……けれどあなたのそういう素直じゃないところ、私は

好きですよ」

「気味の悪いことを言うな!」

心底嫌そうに叫ばれるが、シャリアーズは笑みを崩さない。

「いえいえ、これは本当のことですよ。あなたが本当は根は素直な良い子だとわ

かったから、私はイスカの符術を教える気になったのです。そうでないとこの隠れ

里に連れてくることすらしていませんよ」

「………………」

シャリアーズは2年前、アルタゴ公国に単身乗り込んできたガッシュをこの隠れ里

につれてきて、彼にイスカの秘術である符術を教えた。

それまで外界の人間が連れてこられることは稀にあった。だが、イスカの民以外

の人間に符術を伝授するというのは初めてのこと。

しかも言っては何だがガッシュが周囲に与える第一印象はあまりよくない。むしろ

その無愛想さのせいで最悪に近い部類に入る。

もちろん里の人間からの猛反発があった。それでもその反対を押し切って、シャリ

アーズはガッシュにイスカの秘術の全てを叩き込んだのである。

「……………………」

当時のことを思い出したのかガッシュは言葉を詰まらせる。

ガッシュは愛想はないし口を開けば憎まれ口が叩いてばかりいるけれど、それは

シャリアーズの言うとおりただ素直になれないだけなのだ。

本当は、周囲からの猛反発を受けてもなお自分に符術を教えてくれると言いきっ

たシャリアーズに感謝をしていた。……絶対に口には出さないが。

「……疲れた。少し休ませてくれ」

だからいつもこうやって適当に話を逸らせてしまう。

「じゃああなたの好きだったお茶でも淹れましょうか。旅の話を聞かせてください」

「嫌だね。なんでそんな面倒なこと……」

「それならそれで別に構いませんよ。以前、あなたがこの里でどんな暮らしをして

いたのかをこの妖精さん達に事細かに教えて差し上げるだけですから」

「……話せばいいんだろう話せば!」

途端に怒鳴り散らし、ずんずんと先を進みゆくガッシュを目で追いながら、シャリ

アーズは思う。

2年前のように、これからまたしばらく退屈しない時間を過ごすことができそうだ、

と。
























とりあえずシャリアーズさんが好きすぎる。
彼のせいでガッシュの立場があまりにも弱くなりすぎて(笑
なんかもうガッシュが何も言い返せない相手ってのもいいよなぁ、と。
最初、「彼が黒幕では!?」と思ったのは私だけではないはずだ!(笑
>だってどう見てもアルバ教授…(笑

2009.10.31 UP

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