++ 彼の未来 ++





ぱちぱちと、炎が燃えている。

辺りは薄暗く、闇の色を濃くし始めている。……そんな中、マイシェラは一人炎に

向かって座っていた。

夜も更けてきたので今日はここで野営をしようということになった。

仲間達は皆、夕飯にするための獣や果実を取りに行ったり、水を汲みに行ったり

している。マイシェラはここで留守番だ。

目が見えないからと、仲間達は道中何かとマイシェラに対して気を使ってくれる。

見えないのは生まれつきのことだし今まで不自由を感じたこともない。気を使われ

る必要はないと何度か言ったのだが、あまりしつこく言うのも何なので仲間の行為

に甘えるようにしている。

マイシェラは椅子代わりの倒木に腰をおろして焚き火のほうをじっと見る。

もちろんその瞼は固く閉じられており、生まれたときから光を知らない瞳が目の前

の光景を映すことはない。

それでもこうしていると火のぬくもりを感じることはできる。腰かけた部分からは木

の感触。地に下ろした足からは大地の力強さを感じることができるし、両の耳から

は風の囁きを聞くことも出来る。

「………………」

ふ、と顔を上げる。

少し離れたところで誰かが小枝を踏む音が聞こえたからだ。

光を知らぬマイシェラだが、その代わり聴覚が人より鋭い。音の聞こえた方を振り

向くと、ちょうど茂みを掻き分けて黒髪の男が戻ってきたところだった。

「ガッシュさん。早かったのですね」

迷うことなくそこにいるであろう男の名を呼ぶ。途端に男……ガッシュの目が驚き

に見開かれた。

「……よく俺だってわかったな。先見の力ってやつか?」

ここに戻ってくるまで声は出していない。他に戻ってきている仲間の姿もない。自

分はたまたますぐに担当であった(押し付けられた)水汲みを終えることできたの

で先に戻ってきただけだ。

驚いたようにガッシュが言うと、マイシェラはクスリと笑う。

「このくらいでしたら先見の力を借りる必要などありません。足音やリズムである

程度はわかりますし、水音が聞こえましたから。……それに、他の皆さんならもっ

と賑やかに帰ってこられるでしょうし」

確かに、ガッシュ以外のメンバーなら恐らく一人で番をしてくれていたマイシェラへ

労いの言葉を掛けながら戻ってくるだろう。

だが、ガッシュはそれをしない。元々そういう性格なのだし特に直そうとも思わな

い。

「……ふぅん。そういうもんなのか」

「えぇ、そういうものです」

だから今回も特にそれ以上会話が続けられることはなく、ガッシュはマイシェラよ

り少し離れた位置に座る。 途端に訪れる沈黙。 焚き火の爆ぜる音だけが耳に響

く。

思えばこうして2人きりになるのは初めてな気がする。

まだ出会ってからほんの数日しか経ってないので仕方がないと言えばそうなのだ

が、そもそもガッシュはあまり他人と交流を持つほうではない。

「………………なぁ」

それなのに、まさか自分から話しかけることになるなんて。

きっとこれは半年前にひょんなことで引き取る破目になったあの3匹の妖精のせ

いだ。あいつらのせいで、静かな空間が息苦しく感じるようになっているからだ。

自分にそう言い聞かせながらマイシェラの方を見る。

「はい?」

「あんたは先見ができるんだよな」

「え?」

「未来が見えるって言ってなかったか?」

そう。確かシャリアーズがそんなことを言っていた。風の民の長は、代々先見の力

を持っていると。

「未来……と言うほど大げさなものではありませんが。そうですね、風に色々と教

えていただくことはあります」

「風に……?」

「えぇ。アルタゴの風が教えてくれるのです」

そう言って、マイシェラは軽く夜空を仰ぐ。瞼を閉じているせいかその表情は読め

ない。

ガッシュも釣られるように夜空を見上げた。

まるでマイシェラの言葉に誘われたかのように冷たい風が吹き抜け、木々がざわ

めくように揺れた。

……この風も今、マイシェラに何かを教えたのだろうか。

曇っているからか星は見えない。その光景がガッシュの胸を異様にざわめかせ

る。

「……じゃあ、あんたには俺の未来が見えるのか?」

夜空を見上げたままの姿勢で呟く。

何故そんなことを聞いてしまったのか自分でもよくわからない。……それでも聞か

ずにはいられなかったのだ。

「もし見えるなら教えてほしい。……俺の未来は意味のあるものなのか?」

最近になって時折強く思うのだ。

これから先、一体何をしてゆけばいいのだろう。……こんな薄汚れた血を持つ自

分に……実の兄を手にかけた自分に、未来はあるのだろうか。

「……………………」

マイシェラからの返事はない。風もいつの間にか止んでしまっていた。それと同時

にガッシュは大きなため息をつく。……そうすると、自分の中の何かが急激に冷え

ていくのを感じた。

……馬鹿なことを聞いてしまった。まだ出会って間もない相手に何を言っているの

だ。

ガッシュはちらりとマイシェラの方を見た。 その瞬間、思わずドキリとしてしまう。

一体いつからだろう。マイシェラがガッシュの方をじっと見ており、視線が交わり

あったような気がしたから。

……その、こちらを見るマイシェラの眼差しは、まるで母親のそれにとても似たよ

うなものを纏っていたから。

あぁ、とガッシュは思う。

どうしてマイシェラにこんなことを聞いてしまったのか。

それはこの彼女の持つ慈愛に満ちた眼差しのせいだ。

「……申し訳ありませんが、私にはガッシュさんの未来を視ることはできません」

全てを悟ったようなとても穏やかな笑み。

「けれど1つだけ、おぼろげながら視えるものがあります」

「……………………」

今度はガッシュが無言になる。マイシェラが静かに立ち上がった。

目は見えないはずなのに焚き火を避け、ガッシュの足元に膝を着く。

目線の高さを合わせたかと思うと、マイシェラは手を伸ばす。白い指先がガッシュ

の頬に触れた。

相手の目は見えていない。それはわかっているが思わずドキリとして体を後ろに

引いてしまいそうになる。

けれどそれができなかったのは、頬に触れた指先が思ったよりも冷たかったか

ら。

「……………………」

マイシェラはガッシュの顔を覗き込むようにしている。

じっと、見えぬ目で何かを見ようとしているように。

「…………翼……」

ぽつりと呟かれた言葉にガッシュははっとする。

翼。そう言われるとどうしても思い出すのが半年前のこと。

「……翼が見えます」

「翼……?」

聞き返した声が微かに震えるのがわかった。きっとマイシェラにもガッシュの動揺

は伝わっているだろう。けれどマイシェラは気づかぬフリをして小さく頷いた。

「えぇ。……黒い翼です」

「!」

ビクリと、今度こそはっきりとガッシュの肩が震えた。それでもマイシェラは顔色を

変えることはない。

「黒い……けれど、とても力強くてあたたかな翼。きっと、ガッシュさんを守ってくだ

さっているのですね」

言ってふわりとマイシェラは笑んだ。けれどガッシュは目を見開く。

「……俺を、守る?」

「はい」

迷うことなくマイシェラは頷く。それでもガッシュはどうしても聞き返してしまう。

「兄貴が、俺を守ると言うのか?」

有り得ない。それだけは有り得ない。

だって自分は兄を手にかけたのだ。直接とどめはさしていないにせよ、本気で殺

す気でハルバードを振るったのだから。

「そうですか、お兄様でしたか……」

けれどマイシェラは納得したように大きく頷く。

それ以上何も言えないでいるガッシュの頬から手を離してマイシェラはゆっくりとし

た動作で立ち上がる。そしてふわりと穏やかな笑みを向けた。

「大丈夫です。……お兄様は、ガッシュさんを恨んでなどおられませんから」

それはまるで愚者の過ちを赦す聖女のような呟き。ガッシュは途端に、すとんと肩

から何かが落ちるような錯覚を覚える。



本当にマイシェラが黒い翼を見たのかどうかはわからない。そもそも彼女は目が

見えない。『視える』ということ自体が矛盾しているのだ。

……けれど、マイシェラはガッシュの過去を知らない。あのお人好しのアドルが無

意味に半年前のカナン諸島での出来事を話すとも思えない。

……それならば、彼女の言うことは……

「……それと、もう一つだけ、確実に視えるものがあります」

そんなことを考えているガッシュに、マイシェラは更に声を掛ける。

言いながら、ピンと人差し指を立てる。それはいつも大人びたマイシェラからする

と随分子供っぽい仕草。

「これから先のガッシュさんの旅は、とても賑やかなものになるはずです。ガッシュ

さんには、あなたのことを慕ってくださる方が3人もいるのですから」

「………………」

言われて頭を過ぎるのは半年前に引き取った3匹の妖精たち。

あの日からガッシュの生活はがらりと変わってしまった。

夜は遅くまで騒いでいるし朝は早くからたたき起こされる。

もうすっかりそんな生活にも慣れてしまっていて……気づかないうちに、ガッシュ

の口元に笑みが漏れた。

「……ま、確かにそれだけは当たってるよ」

小さく笑うと、声音からガッシュの雰囲気が和らいだのを感じて、マイシェラも安堵

したように微笑んだ。




静かに夜が更けてゆく中、



ぱちんと、炎の爆ぜる音がした。























「ガッシュをいろんなキャラと喋らせようぜ!」シリーズ第1弾。
マイシェラさんが好きです。ウチのパーティの主要メンバー。
ていうかマイシェラさんの設定を捏造しすぎ。なんかイタコさんみたくなったがキニシナイ!(死
あと、3妖精どこに行ったんだとかいうツッコミはなし!(笑 多分ガッシュのためにご飯取りに行ってるんですよ…
しかし本編中のマイシェラさんってあんまり盲目を意識することないですよね…。先見設定もあんまり出てこなかったのが残念。

2009.10.24 UP

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