++ 彼らならあるいは ++




それはリベル=アークへと向けてアルセイユが発進してからすぐのこと。

「………………」

静かに揺れるアルセイユ艦内の壁に腕を組んでもたれかかるようにしてミュラー

は立っていた。

そのすぐ隣にあるのは仮眠室へと続く扉。今そこで、オリビエが軍服からいつもの

白コートへと着替えているところだった。

軽く顔を上げて天井を仰ぐ。明々とした証明が眩しくて思わず目を細めてしまう。

……と、その時、微かな物音がした。

反射的に腰に手をやり鋭い目をさせそちらの方を振り向く。すると、そこには驚い

たように軽く見開かれた琥珀の瞳の少年が立っていた。ヨシュアだ。

「す、すいません。お邪魔でしたか?」

少し警戒するような声にミュラーは慌てて手を下ろす。

「いや……こちらこそ驚かせてしまってすまない」

反射的な行動とは言え、ここでは少々軽率すぎた。これではここにいる者を信頼

していないと言っているようなものだ。

けれどヨシュアは気にしていない様子で首を振る。

「大丈夫です。ミュラーさんの気持ちも分かるつもりですから。……オリビエさんは

着替えている最中なんですか?」

「あぁ。窮屈な服を一秒でも早く脱ぎたくて仕方がないらしい」

「ははっ。オリビエさんらしいですね」

2人して軽く笑いあう。

「オリビエに用か?」

「そうなんですけど……ここで着替え終わるのを待たせてもらって構わないです

か?」

「あぁ、構わない」

ふとその時、ミュラーは先ほどまでのハーケン門での出来事を思い出す。

オリビエの正体に誰もが驚いていた中、ヨシュアだけが顔色一つ変えていなかっ

たことを。

「……そう言えば、キミはあまり驚いていないようだったな」

何を、とはあえて言わなかった。けれどヨシュアにはわかったらしい。小さく頷いて

微笑む。

「なんとなく気づいていましたから」

2人は空賊砦で山猫号を奪還する際に一戦を交えていた。その時すでにミュラー

はヴァンダールの名を名乗っていたし、そう言えばヨシュアも「オリビエの正体に

見当がついた」とか言っていたような気がする。

「それでも、追及はしないでおいてくれたのだな」

ヨシュアがエステルの元に戻ってきたとき……オリビエが帰国する前、オリビエと

ヨシュアも久方振りの再会を果たした。

けれどヨシュアは結局何も言わずにオリビエを見送った。帰国の途中にオリビエ

が「あれは気づいてるだろうねぇ」と笑いながら言っていたのを思い出す。

「追い詰める気なんて最初からありませんよ。確かにボクはオリビエさんのことに

は気づいていたし、あなたのことも最初は信じていませんでした。……けれど、今

は違います」

言葉を止め、息を吸う。唇が緩やかに弧を描いた。

「今は、あなた達を信じてみようと思っています」

まっすぐにミュラーを見上げる視線には一点の曇りもない。

決して過去のことを忘れたわけではないはずだ。けれど今目の前にいる少年は、

あの空賊砦で出会った頃の彼ではない。

己が本当に大切なものを見つけ、それを守り抜こうとしている一人の逞しい男な

のだ。

ヨシュアが本心からそう言ってくれていることがわかり、それだけのことが嬉しく思

える。

……その時、

「…………ボクを置いて2人で仲良くするなんてジェラシ〜……」

「っ!」

「うわっ!」

背後から聞こえた地の底から響いてくるような声に、2人で同時に声を上げてしま

う。

慌てて振り向くと、そこにはドアの隙間から恨めしそうに2人を見やるオリビエの姿

があった。

「……オリビエ。お前一体何がしたい」

途端にミュラーの額に青筋が走る。けれどオリビエは気にした様子を見せずに部

屋の中から出てくると、わざとらしく両手で顔を覆ってさめざめと泣いてみせる。

「だってだって。ボクという者がありながらそんなに仲良くなっちゃってさ……2人共

ボクのことは遊びだったのねっっ!!!!」

「……あ、あの、えーっと…………」

困ったように笑うヨシュアにミュラーは無言のまま首を横に振る。馬鹿は放ってお

け、の意だ。

「そ、そうだオリビエさん。クローゼが呼んでいましたよ」

逃げようと思ったのか当初の目的をヨシュアは告げる。

「ん? 姫殿下がかい?」

「えぇ、オリヴァルト皇子にお話したいことがあるとかどうとか……」

「あー。彼にかい? それなら無理だねぇ。だって今ここにいるのは奇跡の天才演

奏家、オリビエ・レンハイムなのだからね!」

どこからかバラを取り出してビシリとポーズをつけるオリビエだが、そんなオリビエ

をミュラーはバッサリと斬り捨てる。

「寝惚けたことを言ってないでさっさとクローディア殿下のところに行って来い。こ

れ以上殿下に迷惑を掛けるんじゃない」

いつものように首根っこを掴み、ミュラーはオリビエを引きずるように操縦室に向

かって歩き出す。

「ああああああ! せっかくこの格好になったのだから一度ヨシュア君と熱いベー

ゼをー!」

「阿呆が! いいからさっさと来い!」

嵐のように騒ぎながら、2人はその場から去ってゆく。

後に残されたヨシュアは一瞬呆気に取られたように立ち尽くしてしまっていたが…

…やがて、小さく吹きだしてしまう。



ヨシュアにとってエレボニアは決して切り離すことのできない、忘れることの出来な

い国だ。

それでも決して故郷を嫌いになることはできない。今でも時折懐かしさを感じるこ

ともある。

……それはひょっとしたら、あの2人のような人たちがまだエレボニアにもいるか

らなのかもしれない。




もしかしたら、彼らならあるいは。






……そう思わずには、いられないからかもしれない。
































ミュラーとヨシュアのコンビも一度書いてみたかったけど、結局オリビエにジャマされてしまう…(笑
オリビエとヨシュアのマジ会話も書いてみたいですけど、以前アガットバージョンを書いたからなぁ。

2009.9.23 UP

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