++ 心からの贈り物を ++




 王都グランセル。その東街区のエーデル百貨店。

 昼には最新の流行を追いかけている乙女達が、夕方からはタイムセールを狙う

主婦達が押しかけるその場所に、2人の男の姿があった。

 1人は白いコートに身を包んだ金髪の青年。そしてもう1人は、くたびれた緑の

ジャケットを着た赤毛の男……

「……おぉ。ほらアガット君、これなんかいいんじゃないかい?」

 オリビエが手にしているのは、フリルがふんだんに使われたワンピース。くるりと

こちらを振り向くと、可愛らしいワンピースと一緒に憎たらしいほどの満面の笑み

が出迎えてくれる。

「………………それが何なんだよ。お前が着るのか?」

 そんなバックに花を咲かせているオリビエとは逆に、アガットの反応は冷め切っ

たものだった。

 けれどオリビエは微塵も気にした様子も見せずに、アガットの嫌味にも声をあげ

て笑う。

「イヤだなぁアガット君。ボクが着るわけないじゃないか。あ、それとも、キミはボク

がこれを着ているところを見たいのかな? それなら着てあげなくもないけれど」

「着るな!」

 ワンピースを手にしたまま体をくねらせはじめたオリビエに向かって思わず一

喝。それでもオリビエはニコニコと笑ったままワンピースを元あった場所に戻す

と、今度はすぐ隣にあった違う服を手に取った。

「あぁ、これもいいんじゃないかい? 女の子らしく可愛いけれど、とても動きやす

そうで機能的にできている。いやはや、リベールはいいデザイナーが多いのだ

ねぇ」

 言いながらオリビエは次から次へと洋服を取り出してくる。

 その全てが何故か女物……しかも子供服だった。

 アガットはそんなオリビエを尻目に、眉間にぐりぐりと指を押し当てる。なんだか

先ほどから頭が痛い。

「……ところで、なんで俺がお前と買い物に来なきゃいけないんだ?」

 やっと言葉にできたのは余りにも遅すぎるが、余りにも当然のように湧き出てく

る疑問だった。

 呻くような呟きにオリビエは服を選ぶ手を止めてきょとんとしたようにアガットを

見る。

「ん? だって折角久々に会ったのだし、旅は道連れと言うではないか」

 リベル=アークでの異変を見届けてから数日……

 今日、アガットはグランセルを出る準備をしようとあちこちを歩き回っていた。

 当分の食料などを買い揃え、見納めにと東街区にまで足を運んだのだが、その

途中に往来でリュートを掻き鳴らしているこのお調子者と出会ってしまったのが運

の尽き。

 若い女の子達に黄色い声援を送られて上機嫌な男の前を、他人のフリをして足

早に通りすぎようとしたのだが、オリビエの方はアガットの姿を見つけるや否や気

味の悪い笑顔を振りまきながら駆け寄ってきて、そのまま何故か百貨店にまで連

れてこられてしまったのだ。

「……少佐はどうしたんだよ。一緒じゃないのか?」

 ふと頭をよぎったのは、このいつも傍若無人に振舞っている男を唯一黙らせる

ことができる男の姿。

 思わず辺りを見回してしまうが、あの軍人の姿は今日に限ってどこにも見当たら

ない。

 ……そもそも、ミュラーがここにいたのならオリビエはあんなところで演奏会など

開いていたはずがないのだが。

「ミュラーかい? ミュラーは今日はアリシア女王に用事があってね。ボクもついて

いってあげようかと思ったのだけど、『お前が来ると10分で終わる会話が1時間か

かっても終わらないから来るな』とか言って連れて行ってくれなかったのだよ。ヒド

イと思わないかい?」

「……………………」

 仮にも皇子であるはずのオリビエを同席させないなど、それでいいのか?

 一瞬そう思ったが、口にはしないでおく。ミュラーの言葉の意味が痛いほどにわ

かったからだ。

 オリビエが一人でここにいる理由。それはわかった。

 しかしどうしても理解できないことは……

「さて、そういうことだけどアガット君はどれがいいと思うかい? ボクはこのブラウ

スなんてティータ君にとても似合うと思うのだけれど」

 言いながらオリビエが手にしたのは可愛らしい花の刺繍が施された真っ白なブ

ラウス。

 確かにそれは、あのティータが身に纏えばとても似合うだろう。

 確かにそうなのだが…………

「そうじゃなくて、何でお前がティータの服を選んでるんだよ!!!」

 バン! と、側にあった棚を強く叩きつけた。

 ……エーテル百貨店に入ってすぐ、オリビエはアガットを連れてこの子供服売り

場にやってきたのだ。

 あまりにも自分にはそぐわない場所に口をあんぐりとさせてしまうしかなかった

のだが、オリビエはそれからずっととっかえひっかえ洋服を取り出してくるばかり。

 このお調子者の行動にはアガットは未だ慣れることができない(と言うより慣れ

たくない)。思わず怒鳴りつけてしまったが、オリビエは一瞬黙り込んで何度か瞬

きをしてみせた。

「何を言ってるんだい。選ぶのはボクじゃなくてキミじゃないか」

「…………は?」

「ボクはいくつか選別してあげてるだけ。これは、キミがティータ君に贈るんだよ」

「……どうして俺がティータに服をやらなきゃなんねーんだよ」

 吐き捨てるように言ってのけるアガットだが、オリビエは少しだけ眉根を寄せさ

せた。

「まったく。キミのことだからそうだと思っていたけど……」

 はぁ。と大仰にため息をついて肩を竦めさせる。そして、ビシリとアガットに人差

し指をつきつけた。

「アガット君。キミ、ティータ君にいろいろ世話になっただろう?」

「……まぁ、それは、な」

 ラッセル博士がさらわれて毒を受けた時、その後博士を含む3人で逃亡劇を繰

り返していた時、それに傷を負った体で単身《剣帝》レオンハルトに挑んだ時……

 最初から最後までアガットはティータの世話になりっぱなしだ。何よりも精神的な

支えになっていたことはアガットも否定はしない。

「そんなに世話になった女性に対して何のお礼もしていないのだろう? そんな事

態をエイドスがお許しになると思うのかい?」

「……少なくとも、お前には関係ないことだろう」

 余計なお世話だとは思っているのだろうが、反論の声は先ほどよりも弱くなって

いる。

 その隙をオリビエが見逃すはずがない。ここぞとばかりに畳み掛ける。

「ティータ君はまだ幼いとは言え女の子だ。いつも動きやすい服装を好んで着てい

るようだが、やはりお洒落に興味のない女の子はいないと思うのだよね」

 粗雑で乱暴だが、面倒見が良く根は素直な優しい男。それがオリビエの持つア

ガットという男のイメージ像だ。

「………………」

 案の定、アガットは少し困ったようにオリビエから目を逸らす。

 けれどそれだけでオリビエにはアガットの心の声が聞こえたような気がした。

 ティータに礼をしたいと、そういう気持ちが確かに根付いているのだ。

「……さてと。ということで、ボクとしてはこれかこれをオススメしておくよ」

 胸中でニヤリと笑うと、黙りこむアガットの腕の中に自分の選んだ服を何枚か押

し付ける。

「お、おい……」

「じゃ、ミュラーもそろそろ帰ってきてるだろうからボクは大使館に戻るとするよ」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 あまりにも似合わないヒラヒラの服を抱えたアガットに手を振ると、オリビエはス

キップをしながら百貨店を後にした。

「………………」

 ただ1人残されたアガットは呆然と立ち尽くしてしまっていたが……

「………………」

 すぐに我に返り、手の中に残された洋服を見て、意を決したように唇を軽く弾き

結んだ。










「ただいま〜」

「……遅かったな。どこに行っていたのだ。余計なことはしてないだろうな」

「んーと、ちょっと恋のキューピットをね」

「………………は?」










 その数日後、ツァイスのラッセル家へティータ宛の大きな荷物が届いたらしい

が、それはまた別のお話。





































オリビエをミュラー以外のキャラと絡ませようと思ったところ、
「そういやオリビエとアガットって1歳差なんだよなぁ…」てことに気づいたので書いてみた。
案外この2人もいいコンビだと思うのです。私が書くとどう頑張ってもアガットがオリビエにおちょくられて終わってしまうけれど(笑

2009.2.9 UP

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