++ あと10年遅ければ ++








「……あと10年遅く生まれていればねぇ……」




何気なく、ぽつりと呟いたその一言。

それは独り言のつもりだったのだが、運がいいのか悪いのか、その場にいたエス

テルの耳に届いてしまう。

「……なにが、あと10年なの?」

小首を傾げさせながらそう聞き返され、そんな彼女をじっと見ていた男……オリビ

エは、大仰に肩を竦めさせてみせた。

「おやおや、独り言のつもりだったのだが聞こえてしまったかな?」

ニヤリと笑うオリビエに、途端にエステルが不審なものを見るような目になる。

「……何よ。ヘンなことでも考えてたの?」

そんな反応に、オリビエはため息をつきながら首を振った。

「ヒドイなぁ。まだ何も言ってないじゃないか」

「アンタの日頃の行いが悪いからよ」

「エステル君は手厳しいねぇ」

にべもなく返されるが、オリビエは全く気にした様子も見せずにいつもの笑みを浮

かべながら頬杖をついた。

「で、何があと10年なわけ?」

言いながらエステルは手を腰に当て、オリビエの顔を覗きこむようにする。……相

変わらず、このお調子者の目からは感情を読むことができない。

「んー? なんてことはないよ。ボクがあと10年遅く生まれてればなー、と思ってさ」

「オリビエが? どうして?」

そんなオリビエとは打って変わって、エステルはコロコロと表情を変える。隠し事な

ど到底できそうもなさそうで、人を疑うことも知らなそうなその少女にオリビエは純

粋に好意を持つことができた。

「ほら。もしボクがあと10歳若ければ、エステル君達と同じくらいの年じゃないか。

それならエステル君や姫殿下、ティータ君にもボクの魅力が今以上にわかっても

らえると思ってねっっ!!!」

……それなのに口から出てくるのはいつもの軽口ばかり。

その瞬間、キラキラキラ……と、ありもしないバラがオリビエの後ろに舞っている

ような幻覚が見えた。

同時にエステルの目が呆れたように細められ、大きなため息をつく。

「……まぁ、今のボクはヨシュア君にはない大人の魅力というものを持ち合わせて

いるけれどね」

そんなエステルの様子にもちろん気付いてはいるが、オリビエは気付かないフリ

をして更に続ける。

「今の君達じゃあどう頑張っても兄と妹だからねぇ……。まあ、でももしエステル君

がボクの偉大なる包容力に包まれたいと言うのなら、いつでもボクの胸は開けて

おくから飛び込んでくればいいよっ!」

両手を大きく広げて自分に酔うように声高々と叫ぶが……すでにエステルの目は

呆れ返ったものになっており、唇を真一文字に結んでじろりとオリビエをねめつけ

ていた。

「まったく……いつもいつもそんなことしか考えてないワケ?」

「いや、そんなことはないよ。でも10歳若返ったら今度はシェラ君と釣りあわなく

なってしまうとか、若返っても年下だからこそシェラ君の大人の魅力をより堪能す

ることができるだろうかとか…………」

「同じことじゃないの」

ズバッと切り捨てられて、オリビエはやれやれと言うように首を振る。

「エステル君……人の話を遮るのはナンセンスというものだよ?」

「もういいわよ。同じようなことしか言わないんでしょ? どうせ10年前のオリビエも

今とあんまり変わってなかったんじゃないの?」

「ヒドイなぁ。10年前のボクはそれはそれは素直でとても純情だったんだよ?」

「自分で言ってれば世話がないわよ。……まったく。じゃあ、先に戻ってるからね」

手を振って自分の元から去ってゆくエステルの背をオリビエは笑顔で見送る。

「………………」

そして彼女の姿が見えなくなった時……今度は本当に、誰にも聞こえないほどの

小さな声で呟いた。










「……本当に、あと10年遅く生まれていればねぇ……」










もし、あと10年遅く生まれていれば。










そうすれば自分も、少しはあの太陽のような少女の視界に収まることができたの

だろうか。








































ちょっと変則気味なネタで。ヨシュアに恋する女の子は大勢いますが、
エステルにはいないよな…と思って。 と言うより年の近い男キャラがいないだけですけど。

モチロン今のオリビエにとって、エステルは妹のような存在で恋愛感情は皆無ですけど、
年が近かったら惚れてたんじゃないかなー?と思う。

2008.9.7 UP

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