++ 2つの願い、1つの約束 ++









(……キミに頼みたいことが2つだけある)



それは、あいつがこの道を突き進んでゆくと決めてから幾日か経った日のこと。

ワイングラスを片手にいつものふざけたような笑みを浮かべながら……けれど、

いつもよりずっと真剣な目をしてあいつは言った。



(1つは最後までボクについてきてほしい)



《鉄血宰相》と立ち向かう道。

その道を通り抜けることは、並大抵の力ではできないだろう。

武術に学術、体力に精神力……はたまた運さえも味方につけねばならぬほどの

茨道だ。

自称『この世でエイドスにもっとも愛される男』であるオリビエでさえ、本当に勝機

を掴めるのかわからない。



(例え何があってもどんな結末を迎えようとも……ボクと一緒にこの国の行く末を

見守ってほしい)



それでもこの男は《鉄血宰相》と真正面から立ち向かうことを決めた。

……そして俺は、そんなこいつについていくと決めた。



(……何を今更)



本当に、何を今更。

そんなこと言われずともわかっている。

だから半ば呆れつつそう返すことしかできない。

酒を口に運び、ため息をひとつ。

俺の返答を予想していたのか、オリビエは子供のように嬉しそうに笑っているだ

け。

そんな「してやったり」と言いたげな笑みに少し腹が立ってしまう。



(もう1つはなんなのだ?)

(……………………)



話を逸らすように口を開く。

けれどオリビエはその言葉にふと瞳から笑みを消し……無言のままワイングラス

を傾けた。



(もう1つは…………)



何かを言いかけて口ごもる。

ほんの一瞬だけ沈黙があたりを包み込んだ。

言おうか言うまいか。そう悩んでいるように見えたが、オリビエは意を決したように

顔をあげて小さく笑う。



(もし、ボクが道を踏み外してしまったら……もう戻って来れないところまで堕ちて

しまったとキミが判断したら……)



そこまで言って、一旦ワイングラスを口につける。

ゆっくり傾けて芳醇な液体を流し込み……そして、俺の目を見た。



(その時は、その剣でボクを斬ってほしい)



続けられた言葉に一瞬息が止まる。けれど、オリビエを見る目は逸らさない。



(キミにはボクを斬る資格がある。……いや、キミにしかないんだよ。それに、素

性も知らない誰かに殺されるくらいならキミに斬られて逝きたいよ)



淡々と言ってのけるオリビエの笑みはいつもと変わらない。

……だからこそわかる。こいつがここまで平然としているのは自分の感情を殺し

ている時だ。

どんな時でも、何があっても何を言われても馬鹿みたいに笑っていればその場を

やり過ごせる。そんなことができるようになったのは幼い頃からの経験のせい。

……そんな状況の中で、オリビエは生きてきた。



(……………………)



俺はオリビエの顔をじっと見る。

オリビエは穏やかな目で俺を見ているだけ。



……オリビエの言いたいことはわかる。

これから先は一体どんなことが起こるのかわからない。

精神的にも肉体的にも追い詰められることもあるだろう。その時に自分が本当に

正しい判断ができるのかもわからない。

オリビエがイエスと言うかノーと言うかで数百、数千の人間が路頭に迷い、最悪命

を落とす可能性もある。



道を誤ることだけは決してあってはならない。

……そのためにも、オリビエの側には自分がいなくてはならないのだ。



(……それならお前にも俺の言うことを1つ聞いてもらおう)

(ん? なんだい?)



俺も一口酒を飲む。

オリビエの言いたいことはわかる。俺もある程度の覚悟を持ってこいつについて

行くと決めたのだ。

けれど、だからと言って何でもこの男の言うことに頷いてばかりいるほど俺は馬鹿

ではない。



(俺の前で無様な死に方だけはするんじゃない)



俺の言葉にオリビエは驚いたように目を見開く。

けれどすぐに目を細め、声を上げて笑った。



(ははっ。それは難しい注文だね。無様じゃない死に方ってどんな死に方なのさ)

(そのくらい自分で考えろ)

(……少なくとも、キミに斬られて死ぬのはとても無様なことだろうねぇ)

(貴様がそう思うのならそうなのだろうな)



そう。たとえどんな理由があったとしても、従者に斬られるなど何よりも無様で恥

ずべきことだ。



(でもそれじゃ、ボクの2つ目のお願いは聞いてもらえないことにならないかい?)

(さあ、どうだろうな)



オリビエは笑いながら酒を飲み、俺はそれに軽く息をつく。



(でも、1つ目のお願いは聞いてくれるんだよね?)

(……貴様の心掛け次第だ)

(了解。肝に銘じておくよ)



いつもの会話、やり取り。

……けれど一体いつまでこのような日々を送ることができるのだろう。


一体いつ……この国を、戦火に巻き込むことになってしまうのだろう……


(………………)



けれどきっと大丈夫だろう。

根拠はないが、何故か強くそう思うのだ。


















俺がこいつの側にいることを許されている限り。
























オリビエが、オリビエであり続ける限り。


















































なんだかんだで私の書くミュラーはオリビエに以下略!(笑

2008.6.7 UP

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