++ キミの声 ++








今にも降り注いできそうなほどの星達が夜空に瞬いている。

そんな星空を背にホテルのバルコニーに佇んでいるのは、金の髪と真っ白なコー

トがトレードマークの男……オリビエ・レンハイム。

柵に凭れかかるようにし、オリビエは少し冷たいが心地よい風を頬に受ける。

しばし沈黙をしていたが、ふと軽く閉じられていた目がゆっくりと開かれた。

「……やぁ親友。久し振りだね」

そして唐突に、そう一言。

よく見ると耳に何かを押し当てているようだが、遠目から見ると何なのかはよくわ

からない。

「んーと、1週間ぶりかな?」

指を顎に当てて何かを考えるようにぽつりと一言。

傍から見れば独り言を言っている怪しい人間なだけなのだが、オリビエは特に周

りを気にした様子は見せていない。

どちらにしろ今ここにはオリビエ一人しかいない。それに、誰かに見られたところ

で変人扱いされるのも奇異な目で見られるのも慣れているし、むしろその方が性

に合っていると自分のことながらそう思っていた。

「ふふっ、時折こうして焦らしてお互いの愛を確かめ合うってね。どうだい? ボク

がいなくて寂しいんじゃないかい?」

少々下卑た笑みを見せながら冗談めいたようにそう言ってのける。

そしてほんの少しの間を置いたあと、オリビエは苦笑しながら肩を竦めさせた。呆

れたように……けれど、どこか嬉しそうに首を横に振る。

「……まったく。ホントに冗談が通じないんだから。久し振りなんだから、もうちょっ

とドラマチックな再会を演じようとか思わないのかい?」

わざとらしく大きくため息をついて見せるけれど、口の端にはまだ笑みが浮かべら

れていた。

「そう気を急くのはよくないよ。そうそう、今日のリベールはとても良い天気だった

んだ。夕焼けも綺麗だったし、今も満天の星空だ。おかげでボクの気持ちもとても

晴れ晴れとしている。そちらはどんな具合だい?」

言いながらオリビエは体を反らせて空を仰ぐ。

どこまでもどこまでも続く、蒼く光り輝く星達の行進。オリビエはその眩しさに僅か

に目を細めた。

「……ふぅん。じゃあ、『あちら』の天気はどうだい?」

先ほどとは違い僅かに語気を強める。

姿勢を元に戻すと、ほんの一瞬だけオリビエを纏う空気が変わった。

いつになく真摯な、強い意志を秘めた眼差しがじっと真正面を見据える。

そこに立っているのはオリビエだけどオリビエではない……別の誰か。

飄々とした漂白の吟遊詩人の姿はもうどこにもない。地に足をしっかりとつけ、決

して逸らされない瞳が何かを睨みつけていた。

そう、それは恐らく…………

「…………了解。それだけわかれば十分だよ。後はこちらでなんとかするから」

けれど本当にそれは一瞬だけのもの。

すぐにオリビエはいつもの笑みを浮かべると、何かを確認するように何度か小さく

頷いた。

「じゃあ、またキミの声を聞きたくなったら連絡させてもらうよ。……ほら、冗談だよ

冗談。ま、できるだけ早く連絡するよう心がけるから。……それじゃあ良い夢を。

おやすみ、親友」

軽い調子でそう言い残すと、耳に当てていた手を離す。

慣れた手つきでその手に持っていたものをコートの中に仕舞うと、ふっと肩の力を

抜いた。

「キミの声を聞きたくなったら、か…………」

ぽつりと、先ほど自分で言った言葉を繰り返す。

そしてオリビエは何かを吹っ切るようにもう一度星空を仰いだ。

子供の頃、故郷でもこうして夜空を見上げることがよくあった。星を見ているとどう

してか気分が落ち着いたのだ。

……その時はいつも隣にはあの幼なじみが立ってくれていた。

特に何かをするわけではない。それでも、それだけのことが随分とオリビエの励

みになった。



……この星空を、ここより遠い地で彼も見上げているのだろうか。



そう考えると少しだけ嬉しくなった。

ニッ、と子供のように笑い、そのまま夜風に身を任せることにする。

「……ま、咄嗟に出たにしてはいい線を突いてるかな?」

誰にも聞こえないほどの声で呟いて、オリビエはそっと目を閉じた。










今日も、静かに夜は更ける。






































今回はちょっと短め。
あんまりダラダラ書くより短くスパッと書いたほうがスッキリするような気がして。
ミュラーとの通信で最後にオリビエが言ったセリフは、冗談半分本気半分。そんな感じ。

2008.5.18 UP

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