++ お姉ちゃんの恋人 ++





本、本、本。

見渡す限りに散らばっている本の山。

仕事でほとんど家を空けている両親は、帰ってくるたびにいつもこの惨状を見て

大きなため息を吐いている。

見かねて立派な本棚を買ってくれたのに、その本棚は今や半分しか機能を果た

せてない。

本棚に空白が目立つ中、机の上にも、床にも、挙句にはベッドの上にまで本の山

が積まれている。

どの本も細かな文字やワケのわからない図形ががビッチリと書かれていてさっぱ

り意味がわからない。

私には本の価値はわからないけど、パッと見た感じとても高そうな装丁をした本が

何冊も無造作に転がっている。

はぁ……まったく。うちのお姉ちゃんはなんで昔からこうなんだろう……

私・ウーテは片手に箒を握り締めてため息を吐くばかり。

「今日こそは、絶対に綺麗にしてやるんだから!!」

誰もいない部屋で一人で叫びながら小さくガッツポーズ。まずは手始めに、床に散

らばった本を本棚に片付けるところから始めることにした。







今日は日曜学校の日で、私は朝から教会の方に出かけていた。

朝食を食べてほんの少し部屋を片付けた後、まだ眠ってるお姉ちゃんを放って家

を出る。教会で教区長さんの話を聞いて、ティータちゃん達と楽しくおしゃべりをし

てきた。

……なのに帰ってきたらこの有様だ。ちょっと片付けたはずなのに、明らかに家を

出るときより散らかっている。

そしてお姉ちゃんのベッドはもぬけの殻。

遅刻しそうになって飛び起きて、調べなきゃいけないことがあって思い出して部屋

の中をひっくり返して、調べ物が終わって満足してそのまま家を出た。……そんな

様子がまざまざと思い浮かぶ。

「まったく。誰に似てあんなにだらしない性格になっちゃったのかな」

ここはリベールである意味一番栄えていると言える街……工房都市・ツァイス。

その街の一角に私たちの家がある。

さっきも言ったけど、私のパパとママは仕事で外国に行っていてほとんど家にいな

い。実質上私とお姉ちゃんの2人暮らしのようなものだ。

そして問題なのがこの年の離れた姉。ルイーゼ。

両親の仕事を見てきたのとこんな街で育ったためか子供の頃からオーブメントに

興味を持ち、当たり前のように中央工房に就職した。

稼ぎもそれなりだし余程のことがない限りきちんと定時には帰ってきてくれて夕食

は一緒に食べてくれるし、仕事が休みの時は遊んでくれる。

それだけを見たら文句のないお姉ちゃんなんだけど……たった1つだけ、問題が

ある。

そう。それがこの部屋の惨状。お姉ちゃんは散らかし魔なのだ。

私が片付けても片付けても片付けた端からすぐに散らかして行ってくれる。

どれだけ怒っても『いーじゃないの。ウーテは細かいのよ』とあっけらかんと笑って

て全然懲りた様子が見られない。

普段はさばさばしてて大好きなお姉ちゃんだけど、これだけは本当にどうにかして

ほしい。

私だってまだ13歳で遊びたい盛りなのに、部屋の片付けだけで一日が終わってし

まう時がある。

まぁ、退屈しないでいいって言ったら確かにその通りなんだけど。

「んーと……まずはこれをどうにかしないとダメだよね……」

言いながら手に取ったのは、中央工房のハンコが押された本。……お姉ちゃん、

また返すの忘れてる。

しかもその中には『持ち出し禁止』と書かれている本が何冊かある。床に散らばっ

ている本を本棚に戻したいけど、これはさすがに中央工房に返さないといけない

だろうな。

「持ち出し禁止の本なんてどうやって借りてきたんだろう。コンスタンツェさん、困っ

てるんじゃないかな……」

以前も工房の司書のコンスタンツェさんが、わざわざお姉ちゃんが借りていった本

を返してほしいって家まで来たことがある。なんで私がお姉ちゃんの代わりに謝ら

ないといけないのよ!!

思わず唇を引き結んで手の中の本を睨みつける。

と、その時ドアの叩かれる音がした。

「……お〜い。ウーテちゃーーん」

ちょっぴり間の抜けたのんびりとした声。

聞きなれたその声に、私は本を元あった場所に置きなおすと玄関まで走ってドア

を開けた。

するとそこに立っていたのは、腰にエプロンを巻いた、声と同じでどこかのんびり

とした笑顔を見せる人。

近くの酒場、フォーゲルで働くウルスさんだ。驚くことにこの人はお姉ちゃんの恋

人でもある。

てっきりお姉ちゃんは、ラッセル博士みたいに実験とかバリバリやっちゃって私に

は通じない専門用語で会話をする、同じ中央工房で働く男の人と付き合うものだ

とばかり思っていた。だからウルスさんが初めて家に来た時はすごく驚いた。

だってウルスさんったら、お姉ちゃんの仕事の話も半分以上理解できてないみた

いだし、オーブメントの構造だってこれっぽっちもわかってない。

でも酒場で働いているだけあって料理の腕はピカイチ。掃除も洗濯も嫌いじゃな

いからいつも手伝ってもらってて、お姉ちゃんのパンツですら笑顔で干している。

自分も仕事で疲れてるはずなのに、酒場が閉まるといつもお姉ちゃんを訪ねに来

て、余りものの料理を肴にお姉ちゃんと一緒にお酒を飲みながら愚痴を聞いてあ

げている。そして恋人の妹である私にもとても優しい。

ちょっと頼りないところを除けば、子供の私から見ても本当に理想的な彼氏だろ

う。

……本当に一体あのずぼらなお姉ちゃんのどこが気に入ったんだろう。甚だ疑問

だ。

「ルイーゼいる? 新作の料理を作ったから、ウーテちゃんも一緒に試食してほし

いんだけど」

笑顔でそう言うウルスさんの手には一枚のトレイ。白い布が掛けられているが、布

越しからもわかるほどいい匂いが漂っている。

けれど私は残念そうに首を振るしかない。

「今日もお仕事。お昼は食べに戻ってきてくれると思うけど、まだかかっちゃうか

も」

「あ、そうなんだ。それは残念。でも温かいうちが美味しいから、先に一緒に食べ

ちゃおうか」

「うん。散らかってるけどどうぞ」

謙遜でもなんでもない言葉を言いながらウルスさんに中に入るように促す。

一歩リビングの中に足を踏み入れ、案の定ウルスさんは呆れたように苦笑する。

「ハハ。ホントに相変わらずだね」

可愛らしい花柄のテーブルクロスの上に積み重ねられた本の山。

恐らく朝食を摂りながらも調べ物をしていたのだろう。

もうこんなことにも慣れっこのウルスさんは、トレイを置くと本の山を本棚の中に仕

舞ってくれて、出しっぱなしだった食器まで流しに片付けてくれる。

「いつもいつもごめんなさいウルスさん」

お姉ちゃんはこんなに散らかった部屋を恋人に見られても何とも思わないのだろ

うか。私の方が恥ずかしくなってくる。

けれどウルスさんはちっとも気にした様子を見せず、ただ朗らかに笑う。

「いいよいいよ。気にしてないから。それより悪いけどお茶を淹れてくれるかな?」

「はーい」

私は元気よく返事をすると、ポットに水を入れてお湯を沸かすことにする。

その間もウルスさんは、慣れた様子で簡単に掃除をしてくれていた。















「……は〜〜。美味しかった〜〜。ご馳走様でした」

「お粗末さまでした」

簡単に片付けを終えて、ウルスさんの新作だと言う野菜をふんだんに盛り付けた

パスタを食べ終えてお茶を飲んでほっと一息。

ウルスさんの料理はとっても美味しい。目の前のお皿もすっかりキレイに空になっ

てしまった。

「このお野菜、とっても甘くて美味しかったです」

「だろ? ロレントの方から特別に仕入れたんだ。今が旬の野菜ばかり使ったか

らとびきり美味しいはずさ」

空になったお皿を見てウルスさんは嬉しそうにニコニコしている。

……そして、私の横にはお姉ちゃんの分のパスタが乗ったお皿が置かれてある。

さっきまで湯気がほこほこ出ていて美味しそうだったのに今はすっかり冷め切って

しまっていた。

「……それにしてもルイーゼ遅いね。仕事が長引いてるのかな?」

時計を見ながらふと呟くウルスさん。私は紅茶をもう一口飲んだ。

「なんかラッセル博士がすごい発明をしてるとか言ってたから、ちょっと遅くなると

思うよ」

「そっか。ルイーゼの感想も聞きたかったけど仕方ないな。もうすぐお昼休みも終

わっちゃうし、また今度にしよう」

心底残念そうに呟くウルスさん。私はそんなウルスさんを不思議そうにじっと見て

みる。

「……お姉ちゃんの感想なんてアテになるの? 忙しいときなんて『腹に入れば皆

同じ!』って感じでちっとも味なんて味わってないみたいだけど」

お姉ちゃんは時間があればきちんと料理を作ってくれるけど、時間がなければ三

食サンドイッチやクロワッサンとコーヒーで済ませてしまうような人間だ。

そんな人間に味見など頼んで大丈夫なのだろうか?

私の素朴な疑問にも、ウルスさんは声を上げて笑う。

「確かにそうかもしれないね。……でも俺の働く店のお客の大半はルイーゼのよう

な中央工房で働く人達だから、職員であるルイーゼの意見はとても貴重なんだ。

それにルイーゼはお世辞は絶対に言わない。率直な感想しか述べないから、店

長にもとても気に入られてるんだよ」

「へぇ……」

確かにお世辞は言わない人間だけど、あのお姉ちゃんの意見がねぇ。私はちょっ

とびっくりする。

「それに俺も、ルイーゼが美味しそうに食べてくれる姿を見るのが好きだしね」

「………………」

そしてウルスさんは笑顔のままサラリと、そんな恥ずかしい言葉を一言。

私はどう返したらいいかわからず誤魔化すようにお茶を飲んだ。

お姉ちゃんもそうだけど、ウルスさんもなんだかとっても変わった人だ。何しろあの

お姉ちゃんの恋人なんだもん。ヘンで当然だよね。

……でも、だからどこか波長があったのかもしれない。なんだかチグハグなカップ

ルだけど、なんだかんだ言ってお姉ちゃんとウルスさんはとってもお似合いだ。

そして私も、そんなウルスさんが大好きだ。

「……あ。そろそろ時間だ。じゃあ俺は店に戻るけど、ルイーゼが帰ってきたら感

想よろしくって言っておいて」

「うん。わかった。……あ、そうだ。ねぇウルスさん」

席を立つウルスさんに続いて私も立ち上がる。

けれどふと思い出したことがあったのでポンと手を叩いた。するとウルスさんは笑

顔のまま首を傾げさせるので、そんなウルスさんに小走りで駆け寄る。

「?」

屈むように手で示すと、ウルスさんは何の疑問も持たずに私の高さに合わせて屈

みこんでくれる。私はその耳元にそっと手を当てて顔を寄せた。

「……ウルスさんって、お姉ちゃんといつ結婚するの?」

「へ?」

小声でそう囁くと、一瞬ウルスさんの目が真ん丸になる。けれど私は気にせずに

にっこりと笑ってみせた。

「………………」

真ん丸くした目でじっと私を見ているウルスさんだったけど……すぐに私の言葉の

意味を理解して耳まで真っ赤になる。

「ちょ……! な、何言ってるのさウーテちゃん!」

途端に挙動不審になるウルスさんに、私は笑いを堪えることしかできない。

「だって私、早くウルスさんを『お兄ちゃん』って呼びたいし」

「そ、そういう冗談を大人にするものじゃないよ! ほ、本当に最近の子供はマセ

てるんだから……」

口の中でぶつぶつと言い、ウルスさんは慌てたようにテーブルの上の空になった

お皿を片付ける。

「よかったら、私からお姉ちゃんに聞いてあげようか? お姉ちゃんならきっとすぐ

にOKすると思うな。ウルスさんがいたら家事をしなくて楽だ! って」

「……あのね、俺は家政婦じゃないんだからね」

大げさにため息をつくウルスさんに私は何だか嬉しくなってしまう。

そんなことを話しながら、お皿を片付けて顔を真っ赤にしたままお店に戻るウルス

さんを私は玄関で手を振って見送った。

やっぱり、ウルスさんを『お兄ちゃん』って呼ぶ日も、そう遠くないかもしれないな。

「……よし。今日こそ片付けるぞー!!」

ウルスさんを見送った後、私は空に向かってそう一言。

お姉ちゃんがウルスさんと結婚したら、この散らかし癖も少しは治る……かな?















































ますます名前だけを聞いたら「誰?」の領域に突入してまいりました!(笑
ツァイスでティータの家の近所に住んでいる、いっつも本が散らかった部屋で嘆いているウーテちゃんです!!
初めてこの家に入った瞬間「あ、ウチの部屋…」と呟いた記憶が(笑

ゲーム中は「持つべきものは家事のできる彼氏よね!」なルイーゼさんがに印象的でした(笑
勝手にこの2人の印象はエリカさんとダンさん(笑

途中でティータ達を絡ませようと思ったが無理でした…
あとルイーゼも結局出てないじゃん…(笑

2007.12.9 UP

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