++ 木漏れ日の下 ++






とてもよく晴れた穏やかな午後。

空は高くどこまでも澄み渡っており、ゆったりと流れる雲を追い越すように鳥達が

歌いながら飛び交っていた。

同じ空のはずなのに、この異国の地で見上げる空のほうがよほど澄んでいる。故

郷で空を見上げても、こんな清々しさを感じることなどなかったはずだ。

リベール王国・王都グランセル。

2週間ほど前まで王国全土を騒がせていた導力停止現象の混乱はアリシア女王

の手腕のおかげで少しずつ収束しつつあり、王都にも以前のような平穏な日々が

訪れ始めていた。

「ふむ、さすがはアリシア女王と言ったところかな。帝都で同じことが起こったらこ

うはいかないだろう」

外を駆け回る子供たち。街を行く人々の他愛のない笑い声。忙しなく、けれどどこ

か余裕を感じ取れるように行きかう商人達。

そんな彼らを見やり、頬に太陽のぬくもりを感じながら、オリビエ・レンハイムは一

人グランセルを歩いていた。

「小国ならではのフットワークと言えばそうなのかもしれないが……それでもやは

り、女王陛下が今まで積み上げてきた努力の賜物なのだろうな」

うんうんと大きく頷きながら、オリビエは先へ先へと進んでゆく。

……そして辿り着いたのはグランセル城。顔を上げると目の前にそびえ立つ荘厳

な門扉の脇にいる兵士に軽く手を上げた。

「や。ご苦労さん」

「あ、これはオリビエ殿」

エステルら仲間達のほとんどが彼らの本来いるべき場所へと帰り、オリビエとミュ

ラーがグランセルに滞在するようになって2週間。帝都に戻る日取りが未だ決まら

ず、その間にオリビエは暇を見つけては幾度と無くグランセル城を訪れていた。そ

のためもはや門番ともすっかり顔なじみとなってしまった。

「今日は遅いのですね。もうすでにヴァンダール少佐は来られていますよ」

「うん、知ってる。だから来たんだ。悪いけど通してもらえるかな?」

「もちろんですとも。少々お待ちください」

門番は朗らかに笑うと、門の横にあるスイッチを押した。間を置くことなく大仰な扉

がその姿に見合った大きな音を立てながら開かれる。

本来なら顔見知りだろうとなんだろうと、城内に入るにはそれなりの手続きを踏ま

なければならない。何しろついこの間、王都を揺るがすクーデターが起こったばか

りなのだから。

それなのにそれを省略することが許されているのは、彼らがクローディア王太女

殿下と共に『異変』を食い止めた功労者であり、アリシア女王陛下直々にリベール

滞在中は自由に城内を出入りしても構わないと認められた客人だからだ。

帝国人、というだけで身を強張らせる兵士は少なからず存在する。

けれどオリビエは元々帝国人らしからぬ気さくで人当たりの良い性格の持ち主な

ので、少々癖のあるところを除けばすぐに城の兵士達もオリビエの存在に馴染ん

でいった。



……とは言っても、彼らの全員がオリビエの正体を知っているわけではない。

エレボニア帝国皇子、オリヴァルト・ライゼ・アルノール。

このグランセルでオリビエの本当の姿を知っているのは、クローディア殿下やアリ

シア女王、ユリア大尉やヒルダ女官長などごく一部の人間だけだ。

オリビエが帝国の皇子だと知られれば王都中がパニックになってしまうし、オリビ

エ自身も自由に街を出歩けなくなってしまうと判断したからだ。だから帝国大使館

にすらまだ正体を隠している有様だ。

おかげで昼に近い時刻まで惰眠を貪り、やっと起きたかと思えばミュラーがグラン

セル城に行ったと聞いてのんびりと大使館を出る、という少々自堕落した日々を

送っている。

ずっとそんなオリビエに対してダヴィル大使が「もっと帝国人らしくしろ」だのという

愚痴を言い続けているのだが……彼がオリビエの正体を知ったら一体どんな顔

をするのか、今からオリビエにとっては楽しみで仕方がない。

それはともかく、オリビエだけでなくミュラーもあの日から毎日のようにグランセル

城を訪れている。

もうすぐエレボニアに帰るため、少しでも見聞を広めようとしているらしい。

門番にお礼を言って城の中に入る。時折すれ違うメイド達に軽く挨拶をしながら目

的の場所を目指す。

城内でミュラーがいる場所となれば限られている。大概は書物庫でエレボニアに

はない本を読んでいるか、修練場でリベール兵相手に剣を振るっているかだ。

そう思いながら、ひょい、と、まず書物庫を覗きこんでみる。

今日はここが当たりだった。

視界を掠める紫紺のマント。もうすっかり見慣れてしまった後ろ姿。

「ミュ…………」

入り口から親友の名を呼ぼうとして……ふと、動きが止まる。

踏み出しかけていた足も無意識の内に止め、扉の陰に体を隠す。

「………………」

そしてこっそりと、隠れるように顔だけを出す。目を僅かに細めてじっと中の様子

を伺う。

書物庫の奥にある本棚の前にいるのはまごうことないオリビエの幼馴染の姿。け

れど問題はそこではない。

「……ほほう……」

ミュラーの隣に一人の女性の姿を確認することができたからだ。

あの凛とした後ろ姿も見間違えることはない。王室親衛隊大隊長……ユリア・シュ

バルツ大尉だ。

2人は何冊かの本を手に何やら話をしている。

けれど敵国の軍人同士だというのにその間に険悪な空気などは一切なく、むしろ

和やかなムードに包まれているようにも見えた。

「………………」

「………………」

話の内容までは聞こえてこない。けれどユリアを見るミュラーの横顔はとても穏や

かなもので、彼をよく知っている一瞬オリビエですら驚いてしまうほど。

「……なるほどねぇ……そういうことか……」

軽く目を見開いたまま2人の様子を伺うが、オリビエが来ていることに気づいた様

子はない。

いつも常にあちこちに気を張らせているミュラーにしては珍しいことだ。それだけ

相手に気を許しているということなのだろう。

「………………」

オリビエはそんな親友をもう一度じっと見て、やがて嬉しそうににこりと笑う。満足

したように頷くとくるりと背を向けた。

あぁそうだ。今日はちょっと陽の光を浴びたい気分だったんだ。女王宮へと続く空

中庭園。確かあそこに少し休める場所があったはずだ。

そう心の中で呟きながら書物庫から離れてゆく。

なんだか足が軽い。今にもスキップをしたくなる。

オリビエは浮かれる気分を抑えようともせず、踊るように空中庭園に向かって歩

いていった。
















そのまま踊るように舞いながら、オリビエは空中庭園の一角にあるベンチの上に

腰掛けた。

途中で何人かの人間とすれ違ったが、彼らもオリビエの奇行にすっかり慣れてし

まったのだろう。踊りながら歩いているオリビエを不審がる者などおらず、自分達

の職務に励んでいた。

「………………」

庭園には誰もいない。風が木々を揺らす音を聞きながら、オリビエは背もたれに

体を預けて空を見上げる。

すぐ隣に植えられた樹が影を作っており、隙間から漏れる日の光にかすかに目を

細めた。

「…………ふぅ」

ため息を、一つ。

高揚していた気分は収まったが、それでも口元の笑みと胸元をよぎる幸せな気分

は消えない。

「うんうん。いいことだいいことだ」

最近いろいろなことがあったけれど、こんな気分は久しく味わっていなかった気が

する。

何故だろう。これから先とてつもない困難が待ち受けているというのにとても幸せ

な気分だ。

こんな気分がずっと続けばいい。そうしたら誰もが幸せになれるのに。

……そうすれば、誰も傷つかなくて済むのに…………



「…………あら?」

その時、女王宮の方から一つの影が現れた。

清楚な白のドレスに身を包んだ一人の少女。まだ幼さが残るが、その奥に強い意

志を秘めた菫色の瞳がベンチに凭れ掛かるオリビエの姿を捕らえる。

「………………」

少女は粛々とオリビエの方に歩み寄る。ほんの少しだけ距離を空け、はにかむよ

うに微笑みかける。

「オリヴァルト殿下。お一人ですか?」

「……ん? あぁ、これはこれは姫殿下。ご機嫌麗しゅう」

リベール王国の姫君。つい先日時期女王に任命されたばかりのクローディア・フォ

ン・アウスレーゼ王太女殿下。

オリビエの元婚約者候補でもあった彼女だけれど、共にリベールを旅して『異変』

を食い止めた仲間同士という印象の方が強いため、今はどちらもその時のことを

引きずっている様子は見られない。

オリビエが笑顔で手を上げて、ベンチの端に寄って隣に座るように促す。クローゼ

も何も言うことなくそこに腰掛けた。

「こんなところでどうなされたのですか? 殿下がお一人なんて珍しいですね」

リベール王国の姫とエレボニア帝国の皇子というある意味大問題の2ショットなの

だが、当の2人はやはり気にした様子は見せない。

「いや、ちょっと物思いに耽っていてね」

「物思い……ですか?」

ため息交じりのオリビエにクローゼは目を丸くさせる。

オリビエは基本的に楽観的な性格の持ち主だ。細かいことは気にしないようだし、

そんな彼があれこれと悩んでいる姿はあまり想像ができない。何か余程大きな悩

みでもあるのだろうか。

「あぁ。この晴れ渡る空の下、ちょっと感慨な気分に浸る。そんな憂いある姿すら

絵になるボク……」

「えっと……そ、そうですか……」

けれど髪を掻きあげながら自分に浸るオリビエに、やっぱりいつもの殿下だ、とク

ローゼは思わず苦笑いを浮かべてしまう。

そして何かを思いだしたように「あ」と呟いた。

「そうだオリヴァルト殿下。ユリアさんを見かけませんでしたか?」

「ユリア大尉?」

「えぇ。先ほどから探しているのですけど見当たらなくて」

問われて思い出すのは先ほどの光景。

自分の見たことのないような笑みを浮かべている親友と、その笑顔を向けられて

いる一人の女性。

「………………」

ほんの少し、考えるようにクローゼから目を逸らす。

「……殿下?」

そんなオリビエにクローゼも首を傾げさせる。

けれどすぐにオリビエはどこか真剣な眼差しをクローゼに向けた。

「姫殿下は、ユリア大尉には急ぎの用なのかな?」

「え……? ……いえ、別に急ぎというわけではないですけど……」

いつもと違うオリビエの様子に少々戸惑いながら答えると、オリビエはクローゼを

安心させるかのようににっこりと笑う。

「それなら悪いけれど大尉を探すのはもう少し後にしてくれないかな? 我が親友

にもやっと春が訪れそうなのでね」

「ミュラー少佐に……? …………あ」

自分がユリアを探していることとミュラーに何の関係があるのだろう。一瞬クロー

ゼは眉をしかめさせたが、ふと何かを思い出したように口元に手を当てて軽く目を

見開く。

そんなクローゼにすかさずオリビエも反応する。

「どうかしたかな?」

「いえ、ちょっと思い出しちゃって」

オリビエの笑みが一層楽しそうなものになり、目がきらんと光る。

「ほうほう。よければ話を聞かせてくれないかい?」

「えっと……数日前、修練場にユリアさんを探しに行ったのですけど、ユリアさんの

隣にミュラー少佐がおられたんです」

当時のことを思い出しているのだろう。クローゼはどこか遠い目をする。

「その時のユリアさん、なんだかとても幸せそうな顔をしていたんですけど、私が声

をかけると少佐が離れられてしまって……途端にユリアさんががっかりしたような

顔をされたから、水を差してしまって悪かったな、とずっと思っていたんです」

本当に申し訳なさそうに軽く目を瞑る。クローゼがどれだけユリアのことを大切に

思っているのかがそれだけでわかった。

「なるほど。大尉にも脈有りなのか」

「……ユリアさんにも、ということは、ミュラー少佐にもなんですか?」

クローゼの言葉にオリビエは嬉しそうに頷く。

「うん。ボクが見た感じではあれは確定だね。ただでさえミュラーの笑顔は貴重だ

からさ」

誰よりもミュラーの側にいるオリビエの言葉だ。だから本当のことなのだろう。

「そうですか……よかった……」

ミュラーもユリアのことを想っていてくれていることがわかり、クローゼもまるで自

分のことのように嬉しくなってしまう。

けれど穏やかに微笑むクローゼとは逆に、オリビエはどこかふてくされたような顔

をする。

「ん〜……でもなんて言うのかな。ユリア大尉にちょっぴりジェラシー? さっき書

物庫で2人を見かけたんだけどね、あんな風に笑うミュラー見たことないよ。ボク

の前では怒ってばっかりなのに」

「あの……それは殿下が悪いのでは……」

子供のように頬を膨らませるオリビエにクローゼは苦笑するしかない。

……けれどすぐに真顔に戻る。

頬杖をついて遠くを見るオリビエの目が、どこか寂しげに揺れていたから。

「……これでも、ミュラーには悪いと思っているのだよ」

「え……?」

寂しげな目のまま、独り言のようにぽつりと呟く。

普段の彼からは想像できないような表情に一瞬声をかけることを憚られたが、ク

ローゼはオリビエの横顔を見つめたまま口を開いた。

「何がですか……?」

オリビエはクローゼの方を見ることなく口元に笑みを浮かべる。けれどそれはどこ

か自嘲めいたもの。

「ヴァンダール家は皇族を護る武の家系。だからミュラーはボクなんかのお守りを

押し付けられちゃってるんだ。しかもこんなことにまで巻き込んでしまった。ボクが

もう少し遅く生まれるか、ミュラーがもう少し早く生まれるかしたらよかったんだけ

ど」

乾いた笑いをするオリビエにクローゼは首を横に振る。

「そんな……押し付けられてるだなんて、少佐はそんな風には決して思っていませ

んよ。あんなに殿下のことを大切に思われているのに」

「………………」

クローゼは今までオリビエとミュラーが一緒にいるところを何度も見てきた。

ミュラーは普段はオリビエとは別行動をとっているが、それでも重要な場面では必

ずオリビエの側にいた。

顔を合わせればオリビエに対して罵声を浴びせ、疲れたような呆れ果てたような

表情ばかり見せていたが、それでも決して嫌気が差しているようにも迷惑がって

いるようにも見えなかった。むしろオリビエのことを想っているからこそ怒鳴りつけ

ているように見えた。

「……本当にどうでもいいと思っている相手なら、わざわざ怒ったりしませんよ。そ

れに少佐は殿下を護る為にエレボニアからリベールまで来られたんでしょう? 殿

下がそんな風に思われていることを知ったら少佐は悲しまれると思います」

オリビエとミュラーは少年時代の頃から共に過ごしていると聞いている。だからオ

リビエはミュラーのことを親友だと呼び、ミュラーも普段はオリビエに対してああい

う態度で接しているのだろう。

自分とユリアの間にある絆とはどこか違う絆がこの2人の間に存在しているのだ

と、少し羨ましく思えたほどだ。

クローゼの言葉にオリビエは遠くを見たまま僅かに目を細める。

「……うん。そうだね。こんなボクにでも何も言わずに付き合ってくれてるのはミュ

ラーだけだから。だからボクもついつい甘えちゃうんだろうね」

主と従者であるという前に、幼馴染で親友同士。

いつまでもそんな関係であることをオリビエは望んでいるのだろう。

「……きっと少佐もわかっておられますよ。私も時々ユリアさんに甘えてしまうこと

がありますから」

「ほう。姫殿下がかい?」

「えぇ。私は生まれてすぐ両親を亡くしていますから。ユリアさんは私にとってお姉

さん代わりみたいなものなんです」

クローゼにはオリビエとミュラーのように幼馴染と言える存在はいない。

それでも、いつもユリアが側にいてくれた。今はお互い忙しくて一緒にいられる時

間も減ってしまったけれど、それでも嬉しいときや悲しいとき、誰よりも側にいてく

れたユリアを大切に想う気持ちに変わりはない。

オリビエも同じ気持ちなのだろう。何かを懐かしむような目をしながらうんうんと大

きく頷く。

「ふむ、姫殿下がユリア大尉の妹なら、ボクはミュラーの弟ということになるのか

な? ……ま、そんなことを言ったらあいつは怒るだろうけどね」

そう言うオリビエの顔には、いつものあの笑みが浮かべられていた。

「そんなことはないと思いますけど? 少佐も殿下を弟のように思われてるのでは

ないですか?」

「いや、実際冗談で聞いてみたことがあるんだよねこれが。そしたら『貴様みたい

な弟はいらん!』って一蹴されちゃった。まったく大人げないったらありゃしない」

「あ……そ、そうなんですか……」

ため息を吐くオリビエに、クローゼはやっぱり苦笑いを返すことしかできない。

一体どういう状況でそんな会話を交わすことになったのか。……気になったけどあ

えて聞かないことにする。聞かなくても何となく想像ができた。

「さてと、じゃあ互いの兄姉がいちゃいちゃしている間に弟妹同士でも愛を深めな

いかい?」

すっかりいつもの調子を取り戻したのだろう。オリビエがそっと右手をクローゼの

肩にかけようとしてくる。

「深めません。お喋りにならお付き合いしますけど」

けれどそんなオリビエを跳ね除けるようにクローゼがピシャリと言い除ける。途端

にオリビエの手もピタリと止まった。笑顔もどこか引きつったものになる。

「ふ、ふふ……姫殿下もはっきり言うようになったねぇ……」

「エステルさんやミュラーさんを見ていたら、殿下との付き合い方がなんとなくわ

かってきましたから」

穏やかに笑うクローゼに、オリビエはやり場のなくなった手を引っ込めた。

「ついに姫殿下までエステル君の領域に達してしまったか……これでまたボクの

幸せが一歩遠のいてしまったよ。仕方がないから今夜はミュラーのベッドで存分

に慰めてもらわないとね」

「ふふ。またそんなことを仰ったら少佐に叱られますよ?」

「いーのいーの。ボク一人を置いてきぼりにした罰ってことで。ミュラーが寝静まっ

たところでベッドの中に潜り込んでやる」

冗談めいて言いながらオリビエはベンチから立ち上がる。

日はゆっくりと傾きかけている。もうそろそろあの2人も書物庫を出た頃だろう。

「付き合ってもらって悪かったね姫殿下。弟として、兄の恋は応援したいと思って

いるものだから」

「いえ、声をかけていただいて助かりました。私もお姉さんには幸せになってほし

いですし」

そんなことを言いながらお互いに笑いあう。そろそろ大使館に帰ろうと、オリビエ

はクローゼに軽く手を振って城内の方へと向かって歩き出す。けれど、

「オリヴァルト殿下」

背後から柔らかな声がした。

促されるように振り返ると、静かに佇むクローゼと目が合う。

「よろしければ、またリベールにいらした時にゆっくりお話いたしましょう。今度はユ

リアさんもミュラー少佐もご一緒に。私、美味しいお菓子を焼きますから」

「………………」

声音と同じ穏やかな笑顔に、オリビエは一瞬黙り込んでしまう。けれどすぐにいつ

もの笑みを返した。

「……うん、そうだね。今度はみんな一緒でね」



―― その時まで、ボク達が生きていたならね ――



口に出掛かった言葉をオリビエはぐっと呑みこんだ。

大丈夫。きっと、大丈夫。

自分にそう言い聞かせ、オリビエは拳を強く握り締めて、クローゼに背を向けて歩

き出した。そこにはもういつものふざけた笑みはない。

もう振り返ることはしない。ただ前を向いて歩いていくだけ。……それしか、オリビ

エに道は残されていないのだから。





みんなが幸せになれるように。

また、みんなで笑って話し合える日が来るように。









木漏れ日の下、新たな決意を胸に秘めた。




































星の扉でミュラーとユリアが主語りをやっていたので、
こっちでは主による従者語りをやらせちゃえ、と思って書いてしまいました(笑

オリビエとクローゼのコンビは前も書きましたが、やっぱり書いてて楽しいです。
3rdではクローゼとかユリア、ケビンなんかは立場上の関係で
オリビエのことを「オリヴァルト皇子殿下」と呼ぶようになりましたね。
ですのでこっちでも「オリヴァルト殿下」で統一。
でも周りに誰かがいたら「オリビエさん」に戻る。
それはそれでまた萌え(笑

星の扉8。やっぱり何度見てもオリビエの「お互い生きている内にね」は心臓に悪い。
頼むから否定してくれ少佐…(涙

2007.7.29 UP

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