++ 剣と銃 ++

















リベル=アークの探索の途中、エステル達はアルセイユ内で一時休憩を取ること

になった。

けれど休憩と言っても元々じっとすることが苦手なエステルは、ヨシュアを連れて

定期船に乗っている時もお決まりになっていた船内散策を始めることにした。

ぐるりと船内を一通り回り、今度こそ少し休もうかと休憩室に足を運んだのだが

……そこには、金の髪に白いコートと、いつも決まってそこにいる人物がテーブル

に向かって座っているのが見えた。

……けれど今回は、いつもと1つだけ違っているところがあった。

「へー、なんだか意外」

「何がだい?」

エステルの呟きに振り返ったのは、自称旅の演奏家、オリビエ・レンハイム。

けれどテーブルに置かれているのはワインに満たされたグラスではなく、彼がい

つも愛用している導力銃だった。

「オリビエがお酒を飲んでないなんて。暇だといっつもお酒を飲んでるんだとばっ

かり思ってた」

「ひどいやエステル君。それじゃあボクはただの呑んだくれのロクデナシじゃない

か」

「あははっ。でもホントのことじゃない?」

オリビエは大げさに肩を落としてため息をつき、エステルは悪びれた様子もなく笑

う。

そんなエステルにヨシュアも思わず苦笑しながら……改めて彼女の凄さを実感し

ていた。

クローゼの時もそうだったが、エステルはヨシュアやオリビエの正体を知ってから

も、その後も自分達に接する態度を変える気配がない。

『だってヨシュアはヨシュア、オリビエはオリビエだもん』が恐らく彼女の言なのだろ

うが、それがどれだけ凄いことなのかを本人は全く理解していない。

こうして変わらずに接してくれることが、どれだけこちらが心休まるのかということ

を。

「へぇ……オリビエって銃の整備もできるんだ」

エステルとヨシュアは一緒にオリビエの向かい側の椅子に座る。

テーブルの上に布が敷かれ、そこにオリビエが使っている銃が分解されて置かれ

ている。銃の部品の1つ1つを布で拭いているようだった。

「整備ってほどじゃないけどね。簡単な掃除さ。きちんとした整備は工房に任せる

けど、このくらいは自分でできなきゃ銃使いとしては失格だよ」

「やっぱりそうしてると違うものなの?」

「そりゃそうさ。導力銃はとてもナイーブだからね。きちんと愛情を込めて手入れを

していれば素直に言うことを聞いてくれるし、怠ればすぐに機嫌を損ねてしまう」

「ふぅん。そういうものなんだ」

「あぁ。世の中の女性達と一緒さ。エステル君だって、ヨシュア君が他の女性と仲

良くしていたらいい気がしないだろう? それと同じことさ」

何かを含むように、僅かに目を細められながら言われ、エステルは頭の中で思い

出す。

……ドロシーに渡された、ヨシュアとジョゼットの写真を。

「………………」

無意識の内にじーっと隣に座るヨシュアを見てしまう。

「……え? エステル、ボク何かした……?」

突如睨みつけるようにされてヨシュアは笑みを引きつらせる。

そんなヨシュアの様子にエステルはぷいっとそっぽを向いてしまった。

「べっつにー、な〜んにも〜??」

「全然何でもないことないんだけど……」

何のことかわからないヨシュアは困惑しながらも唇を尖らせ、そんな初々しい2人

にオリビエは声を上げて笑う。

「もうっ! 元はと言えばオリビエがヘンな例えをするからじゃない!」

「ヒドイわっ! ボクはただエステル君の問い掛けに答えただけなのに〜〜!」

怒りの矛先をオリビエに向けるエステルに、わざとらしく大仰に驚いてみせるオリ

ビエ。

そんないつも通りのやり取りに、ヨシュアは自然と口元に笑みが浮かぶのがわ

かった。










エステルとオリビエのやり取りも落ち着き、休憩室に再び静かな時間が流れ始め

る。……すると、飽きもせずにじっとオリビエの作業を見つめていたエステルが何

気なく口を開いた。

「……ところでさ、オリビエってどうして導力銃を使うようになったの?」

「ん? なんだい藪から棒に」

オリビエは銃から目を離さない。エステルはそんなオリビエをじっと見る。

「ほら、だってさ、オリビエって一応エレボニアの皇子様なんでしょ?」

「まぁ一応ね」

「あの……一応って……」

2人の謎の会話に思わずヨシュアが苦笑いを浮かべるが、エステルも当のオリビ

エも気にした様子はない。

「なんか皇子様って、あんまり銃ってイメージがしないのよね。ほら、クローゼもレ

イピアだし」

「んー、そうかい?」

小首を傾げさせるエステルをちらりと見てから、オリビエは手の中にある銃を見つ

める。

ほんの少しの間を置いたあと、何かを思い出すかのようにそっと指先で銃身をな

ぞる。

「……まぁ、一時期は剣も習ってたんだけどボクには性に合わなくてさ。教えても

らった中で、一番合っていたのが導力銃だったってワケ」

「へー……」

「ほら。それにボクってとってもか弱いじゃないか。エステル君と違って力仕事は向

かないし、ナイフとフォークより重い物を振り回すことなんて到底無理なのさっ!」

片手で顔を多い天井を仰ぐオリビエをエステルは目を細めてじっと睨みつける。

「……ケンカ売ってるの?」

「導力銃もナイフとフォークより重いと思いますけど」

「あぁっ! そのツッコミはとっても野暮だよヨシュア君!!」

反射的に棒を構えそうになるエステルを制止するかのように、オリビエは顔を覆っ

ていた手を突き出す。

頬を膨らませているエステルをヨシュアは苦笑しながら宥め、そんな2人をオリビ

エは微笑みながら見つめる。

そして、テーブルの上に乗せた銃の部品の1つを取る。

「……ま、剣もまったく使えないわけじゃないよ。特に今回みたいな導力停止現象

がまた起きないとも言いかねないし、導力に頼らなくてもいい武器も使えるように

しておかないといけないと思うしね」

今回の導力停止現象で、一番ダメージを受けたのはオリビエやティータのような

銃器使いだ。

エステル達と同じ遊撃士のカルナもそうだったが、導力が動かなくなってしまうとそ

れを原動力にしている銃器は一気にただの鉄の塊と化してしまう。

特にオリビエはアーツ使いでもあるから余計だ。彼はあの瞬間どういう状況だった

のだろうか。

「あの時はやっぱりオリビエさんも大変だったんですか?」

ヨシュアに問いかけられ、オリビエはその時を思い出したのか大きくため息を吐

く。

「そりゃそうさ。銃も魔法も使えない。ボクに残されたのはリュートだけになっちゃっ

たんだからね」

ぽろん、とリュートを弾くマネをすると誰もが思わず苦笑してしまう。

「じゃあ導力銃以外も使えるようにすればいいじゃない。棒術でよければあたしが

教えてあげるわよ?」

「エステル君が?」

ふとしたエステルの提案にオリビエは目を真ん丸くさせる。

けれどエステルを見つめるその目がすぐにすうっ……と細められる。

……あの目は知っている。よからぬことを考えてる目だ。

「おぉう……エステル君がボクに手取り足取り……」

「……前言撤回。やっぱ教えない。父さんに習ってよ」

それ以上のことを言われる前に即座に切り捨てるが、オリビエはそれ以上ふざけ

ることはなく、ただ一つため息を吐いた。

「でもどっちにしろ無理なんだよねぇ。剣とか棒術を習おうとすると怒られちゃうん

だよ」

ふと遠い目をしてしまうオリビエに、エステルはきょとんとする。

「怒られるの? 誰に?」

「あぁ……ミュラーに」

「ミュラーさん?」

唐突な名を出されてエステルは目を丸くさせる。

オリビエの幼馴染で、誰よりもオリビエのことを知っていてその扱い方もよく理解し

ている男。

エレボニア帝国軍少佐、ミュラー・ヴァンダール。

「どうしてミュラーさんが怒るの? あ。ひょっとして、オリビエが昔ミュラーさんを剣

で怪我させちゃったとか?」

「失敬な。そこまでヘタクソじゃないよボクは」

「じゃあどうしてよ?」

「さてどうしてだろうね〜。ボクの方が強くなっちゃったら困るからじゃない〜?」

オリビエはからかうように笑い、肩を竦めさせる。

エステルはまだ頭にハテナマークを浮かべさせていたが……そこまで事の成り行

きを見守っていたヨシュアが静かに口を開く。

「……剣だと前衛に出てしまうからじゃないですか?」

その呟きにオリビエもエステルもほぼ同時にヨシュアを見た。

「………………」

「そうですよね? 前衛に出るとそれだけ危険が増すから、後衛でも闘える銃にし

た……そうじゃないんですか?」

「………………」

ヨシュアの問い掛けにオリビエは穏やかな笑みを返すだけ。

エステルが驚いたように目を見開く。

「へ……そうなの?」

オリビエはその問い掛けにも答えずにまだ微笑んでいる。

恐らく、この無言は肯定の意。エステルにもヨシュアにもそれがすぐにわかった。

オリビエはそんな2人をちらりと見ると、掃除を終えた銃を慣れた手つきで元に戻

しながらゆっくりと口を開く。

「剣より銃の方が性に合ってたってのは本当だよ。……でもそれ以前にあいつが

許してくれないんだよね。自分より前に出るのを。ミュラーって案外目立ちたがり

なんだよ♪」

いつもの調子で笑いながら言うけれど、それがただの冗談ではないことは2人に

はわかっていた。だからエステルも茶々を入れることはしない。

「『絶対に俺より前に出るな』って。あいつ普段は可愛いけど本気で怒ったら怖い

から」

そう言ったオリビエの笑みには、嬉しさと寂しさが入り混じっているように見えた。

……複雑なのだろう。守ってもらえる嬉しさと、友ばかりを危険に晒してしまう遣る

瀬無さと。

「でもただ守られてばかりいるのも癪じゃないか? 借りを作りたくないしね」

部品を手に取り、それと1つ1つはめてゆく。ばらばらだった銃がするすると元通り

の形を成していった。

「ミュラーより前に出るのがダメなら、後衛からでも支援できる武器しかないじゃな

い? だから自然と銃とかアーツをメインに習っちゃうハメになっちゃったワケ」

ぱちりと、最後の部品を銃にはめる。テーブルの上に置かれた導力銃は、いつも

より輝いているように見えた。

「これで貸し借りゼロ、ってね♪」

オリビエは笑いながらそう言ったが、2人にはわかっていた。

もちろん借りを作りたくないのも本当なのかもしれない。……けれどもそんなこと

以上に、ミュラーがオリビエを守りたいように、オリビエもミュラーを守りたいのだ。

そう。エステルとヨシュアが互いを守ってあげたいように。

「…………さてと、そろそろ休憩は終わりかな?」

「あ……そうね。もう十分休めたし」

オリビエがゆっくり立ち上がるのを見てエステルとヨシュアもはっとしたように顔を

上げる。

「もしこの天才に用があるなら言ってくれたまえ。いつでもキミ達の手伝いをしよう

じゃないか」

オリビエはさらりといつもの調子で前髪を掻きあげるが……エステルは、オリビエ

以上に満面の笑みを返す。

「あれ? 聞いてないの? 次はオリビエは連れて行かないわよ」

「……へ?」

きょとんとするオリビエに、ヨシュアも満面の笑みを返す。

「ミュラーさんに頼まれたんです。『オリビエには労働のありがたさをわからせてや

りたいから、次は置いていってくれ』って」

「…………へ?」

「ってことで、今回はオリビエは留守番ね♪ アルセイユの部品集め頑張ってちょ

うだい。丁度今、一番重い部品を引き上げるところなんですって」

一番重い部品。その言葉にオリビエの顔がサーッと青くなる。

「そ、そんな! 頼むよエステル君! ボクを連れて行ってくれたまえ!」

「ダーメ。あたしだってミュラーさんに恨まれたくないもん」

「ボクに恨まれても構わないのかい!?」

「オリビエさんが恨んでも迫力なさそうですよね……」

「ヨシュア君まで〜!!」

エステルだけでなくヨシュアにも畳み掛けるように言われて、オリビエはさめざめと

泣き出してしまう。

「うぅっ!! 裏切り者!! 一生恨んでやるから!!」

「はいはいお好きにどーぞ」

「……ごめんなさいオリビエさん」

2人の笑い声と1人の笑い声が休憩室の中に響き渡る。

それは、とても平和で幸せな時間。

いつまでもいつまでも、続いて欲しいと思う時間。











天井のライトを浴びて、導力銃が黒い輝きを放っていた。






































アルセイユ内休憩所、withエステル&ヨシュアバージョン
しかしエステルとオリビエが絡むとヨシュアが喋る暇がない(笑

2007.6.24 UP

戻る

inserted by FC2 system