++ はじまりの地 ++




















エレボニアの運命を変えるかもしれないその男が生まれたのは今から25年前。

……まだ、俺が3歳の時だった。































ヴァンダール家はエレボニアでも武の名門として知られていて、先祖代々エレボ

ニア皇族に仕える家系だ。

もちろん、そのヴァンダール家の1人として生まれた俺の運命も、最初から定めら

れていた。











轟々とうるさい戦車の中響く、物寂しげなリュートの音色。

『琥珀の愛』……この男の十八番だ。

これだけ大きく揺れているのに、その指先が奏でる旋律には一寸の狂いもない。

これから他国へ赴くため兵士達が緊迫しきっている空気の中、恐ろしいくらいに場

違いな繊細な音色。

普段の俺ならその全く空気の読めていない行動に怒鳴り散らすところだが……今

日は、何故かそんな気になれなかった。

「………………」

俺の視線の先にいるのは、先ほどからリュートを弾いている1人の男。

赤を基調とした軍服に身を包み、普段は下ろしている金髪を後ろで1つに縛って

いる。

瞼は軽く閉じられているが、その奥に並みならぬ決意を秘めた色を湛えた瞳があ

ることを俺は知っている。

……だからだろう。この場にそぐわないこの男の言動に、今は口を挟む気になれ

ない。

ぽろん……と、リュートの音が止まる。

いつの間にか俺はそいつを凝視してしまっていて、その視線に気付いたらしい。

「どうしたんだいミュラー。ボクの美しさに惚れ直していたのかな?」

悪戯好きの子供のような笑みにじっと見つめられ、俺は視線を逸らす。

「……黙っていたらそれらしく見えるのになと思っていただけだ」

皮肉を込めた俺の言葉にも、そいつは大仰にため息をついてみせる。

「相変わらずつれないねぇ。ま、そんなところも可愛いんだけどさ」

けれどすぐに嬉しそうに笑いながら、リュートの演奏を再開させる。

その音色に緊迫した場がほんの少し和んでゆくような気がした。



エレボニア皇帝ユーゲントが一子、オリヴァルト・ライゼ・アルノール。

それが目の前にいる男の……俺が永遠に仕えると決めた男の名だ。



気がつけばいつも共にいた。

誰よりも長く同じ時を同じ空間で過ごしてきた。

とは言え、関係だけで言えばこの男は主人で俺はただの従者。

本当なら友などと呼んでいい間柄ではないのだが、こいつは俺のことを「幼馴染」

だと言い、「親友」と呼んでくれている。

……けれどもしかしたらそれは、この男の出生とも関係しているのかもしれない。



オリヴァルトは本来、望まれて生まれてきた子供ではない。

それはオリヴァルトが庶出……つまり、皇帝ユーゲントと正妻の間の子ではなく、

愛人との間に生まれた子供だからだ。

だからだろう。オリヴァルトは皇族の公式行事にもほとんど顔を出さない。

自然と俺とオリヴァルトが共に過ごす時間は増え、いつしか俺は皇族である男に

溜め口を聞くまでになってしまっていた。



地位と名誉を何よりも大事にしている厳格な帝国貴族とはかけ離れた楽観的な

性格。

……けれど、今ここにいるのはいつもふざけた態度を取っているお調子者ではな

い。

静かに闘志を燃え滾らせている、エレボニア帝国の一人の皇子だ。




「オリヴァルト……」

「ミュラー。今はオリビエだ」

「ここはエレボニア領だぞ」

「……まったく。相変わらず融通が利かないなぁ」

オリビエ……それはオリヴァルトがエレボニアの隣国リベールを旅していた際に

使っていた偽名。

さすがのオリヴァルトにも他国で容易くエレボニア皇族の名をするわけにはいか

ないのはわかっているので、エレボニア領外ではその名を名乗るようにしていた。

「……別にいいじゃないか。オリビエで」

「………………」

オリビエ・レンハイム。

それはリベールを旅している間だけの名。

……だが、そのはずだった名は、いつしかオリヴァルトの中を大きく占めるように

なっていた。

そう。遊撃手であるエステル・ブライトやヨシュア・ブライト。彼らとの出会いによっ

て。

彼らの前ではオリヴァルトはエレボニア帝国皇子ではなく、ただのお調子者の旅

の演奏家になる。

その空間を、その居心地の良さを、オリヴァルトは知ってしまったのだ。

「……わかった。では、オリビエ」

「なんだい?」

そう呼ぶと、オリビエは嬉しそうに笑う。

「最後にもう一度聞く。……止める気はないのだな?」

「ないよ」

嬉しそうな笑顔のまま、あまりにもさらりと返される。

ある程度予想はしていたが、その呆気なさに俺は思わずため息をつく。

「何度言ってもボクの気持ちは変わらないよ。それはキミが一番よく知ってるだろ

う?」

「あぁ。俺が言ってすぐに止めてくれるようなら、25年間こんなに苦労はしてしない」

やはり皮肉を込めて言うが、これにもオリビエは笑い声を返すだけ。

……けれどすぐに笑みを消し、リュートを奏でていた手を止める。

ふと顔を上げると、いつになく真剣な眼差しが俺を見ていた。

「ボクも最後にもう一度聞くよ。……キミこそ、引く気はないのかい?」

「ない」

今度は俺が即答する番。

オリビエも想像していたのだろう。どこか困ったように笑う。

「これはボクの戦いだ。キミまで巻き込む気はない。今ならまだ引き返せる」

「くどいぞ」

今日に至るまで幾度となく繰り返された言葉。けれど結局最後までお互いの意見

が変わることはなかった。



――今日、俺達はこの国を牛耳っている怪物、《鉄血宰相》ギリアス・オズボーン

に宣戦布告をする。



それは下手をすれば、帝国全土を敵に回すのと同義語だ。

もちろんそのことを承知の上で、この男は戦いに挑もうとしている。

「もし事がまずい方向に進めばボクは反逆者の烙印を押されかねない。エレボニ

アは皇族だろうとなんだろうと、反逆者は極刑だ。ボクと関わっていたことがわか

れば、いくらヴァンダール家の者だからと言ってキミもただでは済まない。……そ

れをちゃんとわかってるのかい?」

「………………」

「ボクのお目付け役だからって、ここまで関わる必要はないよ。今までの働きで十

分だ。だから……」

「何度も言わせるな」

オリビエの言葉を遮りオレは口を挟む。ほんの少し、オリビエの肩が震えた。

「俺はお前の親友なのだろう? 親友を助けるのに、いちいち理由が必要なの

か?」

言い切って、じっと目の前の男の目を見る。その目が一瞬丸く見開かれた。

そう。こいつがオレを親友と呼んでくれている限り。

……オレは、この男の剣として生きていくことを決めたのだから。

「………………」

俺の言葉にオリビエは呆気に取られたようにぽかんとしている。

……けれどすぐに、口元に笑みを浮かべた。

「ははっ……! きっとキミならそう言ってくれると思ったよ」

無邪気な子供のような笑み。

時々こいつは本当に子供のように笑う。

……それと同時に、オレは再び強く決意する。

皇子だとか、従者だとか、そんなことではない。

親友と呼んでくれる相手を助けようと思うことに理由なんて必要ない。

「それに、俺がいないとお前は何をやらかすかわからないからな」

「そうそう。ボクはミュラーがいないと下着を替えることもできないからねぇ」

「……寝言は寝てから言え!」













戦車が大きく揺れながら進む。

ゆっくりと、俺達の戦争の始まりとなる地へと向かって。

































白状します。
ミュラーに「オリヴァルト」と呼ばせたかっただけなんです(笑

オリビエが言う「親友」って言葉が好きです♪
なんかすごい特別な感じがしてさ。

ミュラーの3rdキャラ紹介の「オリビエの剣として生きていくことを決めた」というのに
1人で萌え萌えしております(笑>そういう設定大好き!
3rdで2人の子供の頃の話とか書かれるといいなぁ。

2007.5.20 UP

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